《連載 #1》ジェイ・マックスを探して

2024年1月に行われた『HELLO YOSHIWARA 2023:吉原商店街に出会おう!』展覧会。吉原商店街で店舗を営む「店主」と県外芸術家の両者が「表現者」としてタッグを組んだ成果が披露されたこの場で、密かに産声をあげたもうひとつの「作品」があった ———。

吉原MAD-DOGsの好奇心がいざなう、半径500メートル以内の旅をつづる連載エッセイをお届け。

 
 
 

《プロローグ》

1月のある日、吉原商店街の一角で、とあるイベントが行われていた。名前は「HELLO YOSHIWARA」。

招聘したアーティストと地元商店の店主がコンビを組み、それぞれの視点から吉原を表現するというものだった。

そのうちの一組が、30年くらい前の吉原商店街を舞台にした物語を作っていた。

 

その物語には私が知っている商店街の姿もあれば、知らない商店街の姿もあった。特に作者の筆が乗ってきた中盤以降は、私の知らないお店ばかりが出てきた。

私が進学で吉原を離れたこともあるが、大人の男性が行くタイプのお店だったのもその理由だと思う。

しかし、知らないお店が出てくるようになってからが、俄然面白くなってきた。当時話題になっていたイタリアの国会議員の名前をもじった「チョッチョリーナ」というお店のくだりでは「え⁈そんなこと現実であるの?妄想じゃない?」と思いながら読んだり、「J-MAX」というお店のくだりでは「そんな怪しげなお店が商店街にあったんだ。でもあの頃ってそんな雰囲気が割とあったよね」と思ったりした。

 

展示の具合も、その世界感に潜り込んでしまう要素が多分にあった。

作者が携帯小説を書いていたということもあるのか、文章が縦に細長く展開されていたり、アーティストによるイラストが物語を取り囲んでいたりした。

そのイラストも、女の子が裸になっているような、怪しく、生々しいものだったのだけれど、どこかそっけなく、でもかわいらしい空気が漂っていた。

奥の方には薄暗くピンクに光る小部屋があり、展示を見る前に「あの部屋は物語を読んでから入ってください」と、あらかじめ指示をされていた。その小部屋は、見るからに怪しげで、入ってしまったら悪い夢を見そうな雰囲気をバンバンに出していた。それでも何か引き寄せられる力があり、怖いもの見たさで入ってみたくはあった。

 

そんなわけで、あの小部屋に入るためにはこの物語を読み切らねばならない。そんな使命感もあり、すぐに読み始めた。

読み進めていくと、どんどん赤裸々で生々しい話になっていった。

集中して読んでいくうちに、後ろの方から「ピチョン…ピチョン…」という、水道の蛇口から水の漏れる音や、「シャー」というシャワーのような音もしてきて、物語の怪しい世界に完全にからめとられてしまっていた。(後で気づいた事だが、これらの水の音は、別のコンビが湧水について展示していたもののBGMだった)

 

物語の世界にすっかり入り込み、恐れていた薄暗いピンクの小部屋にも前のめり気味で入室し、満足して展示の見学を終えた後、この展示のイラストを描いたというアーティストの方とお話しする機会を得た。

 

せっかくなので疑問に思っていた事も聞いてみた。

「後半は知らないお店ばかりなんだけど、商店街のどこにあったんだろう?」

すると、このように答えてくれた。

「もうみんな無くなってしまったみたいなんだけど、J-MAXというお店の看板だけは残ってるみたいですよ」

 

なんと。

半ば「この物語は作り物で、出てくるお店など、本当はなかったのではないか」と思っていたので、看板だけでも実在すると聞いて驚いた。

 

そう聞いたら、探さない訳にはいかないではないか。

私はJ-MAXを探す旅に出る事にした。

 

Artwork: Nozomilkyway『「色男のリアルは私のフィクションとして吉原商店街へ繰り出す」』 / Photo: スズキトオル

 

*次回更新は2025年1月頃を予定しています


吉原MAD-DOGs プロフィール

静岡県富士市吉原からやってきました、吉原MAD-DOGsです。東京〇〇ズという名前に憧れて、吉原を名前の冠につけました。 ひとりプロジェクトなので小さなsです。誰か入ったら大きなSにします。 まちの偵察を日課としています。


“Media of Yoshiwara, by Yoshiwara, for Yoshiwara”

徹底的にどローカル。今と昔を見つめながらすこし先の “新しい吉原カルチャー” を考える

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